memory...

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本部での生活も4週目に突入。
あの事件からすでに2日が経った。俺達はすでに通常の仕事に戻っている。
 
「お前、またやらかしたんだって?」
 
「大分大きな損害出したらしいな。どうすんの・・?w」
 
 
奇襲騒動の話はすっかり広まっていた。
その時情報連絡室にいた俺達のうわさもしっかりと伝わり、俺はまた更に有名人になった。
 
あの事件後も、相変わらず記憶力は回復しないまま。
むしろあの時頭にダメージを受けたせいで、更に急ピッチで悪化している。
仕事の最初に、仕事内容とその方法を教えて貰わなければ、何をすればいいかも分からなくなった。
とはいっても、ニャースの奴が相変わらず丁寧に教えてくれるから、何とか仕事は出来ている。
 
まあしかし、今は毎日見ず知らずの奴に文句を言われるようなもんだから、逆に気にならなくなった。
むしろ自分のミスだってどんどん忘れるし、意外に楽かもしれない。
 
ただし・・・仕事内容は最も底辺で、誰もやりたがらないような単純作業ばっかりになったけど。
 
 
もうこの頃になると自分で自分の歴史を勉強するようになっていた。
大富豪ササキ財閥に生まれ、忌わしい許婚がいたころの窮屈な生活は何故か完全に覚えている。
しかし、ここ近年の・・・ピカチュウを追っかけていた頃の記憶はもうほとんどなかった。
自由を求めてロケット団に入団したのは覚えてる。
でも・・そこから何をやっていたのかは具体的には分からない。
ピカチュウをどうやって追いかけて、どんな日々を過ごしていたのか・・・・それも記憶にない。
 
毎日自分の中で気になったことをメモするようにしていた。
どうやって捕獲装置を作っていたのか。
いつピカチュウに出会ったのか。
よく自分の記録に出てくるジャリボーイとは何なのか。
ニャースいわく、それが俺の記憶から消えたものらしい・・・。
 
でも、だからといって、日々悲しく過ごしている訳でもない。
本当に淡々としている。
過去の始末書を見てみると、びっくりするぐらいすごい体験をしているようだ。
中には氷山でフリーザー捕獲に失敗、なんてのもあった。
一体どうやってそんなことをしたんだか・・・・想像すると結構楽しい。
 
 
 
そして、ついに、
 
 
今日疑問に思ったことは、
「どうやってニャースとムサシに出会ったのか」
だった。
 
この二人のことはしっかりと記憶にある。
所々のエピソードはどんどん減っていくけど、
とにかくずっと一緒にやってきた気がする。
 
 
出会った時のことが思い出せないのは、正直結構ショックだ。
 
 
 
だけど・・・まだ忘れたわけじゃない。
 
 
 
 
 
・・・・
 
 
 
 
 
 
 
 
本部に来て1ヶ月――。
 
 
そうだ、
 
今日はすごく大事なことをしないといけなかったな。
 
 
 
 
珍しくお昼休みが取れた情報技術部。
向かったのはポケモン保管倉庫だった。
 
「ここが保管倉庫ニャ!」
 
「そうなのか・・・。こんなにたくさんポケモンがいるんだな・・!」
 
 
「IDの提示をお願いします。」
 
「どうぞ。」
 
「・・・確かに。それでは、お持ちのポケモンをお渡しします。」
 
預かったのは、いくつかのモンスターボール。
それを持って、本部の外の、小さな公園に向かった。
 
 
 
「よしっ、出て来い!!」
 
一斉にボールを投げると、5体のポケモンが出てきた。
 
マスキッパ、デスマス、モロバレル、マネネ、そして手持ちのマーイーカ。
 
 
へーぇ・・・・こいつらが・・。
 
感動して眺めていると、ものすごい勢いで4体がのしかかってきた。
 
 
 
!!!!????
 
 
 
それを上からニコニコ見つめるマーイーカ。
 
まあ、はっきりいうと出会った時の記憶は一切なかった。
一緒に冒険したことも、具体的には覚えてない。
今の俺からすると、今初めて会ったようなものである。
でも、会えてすごく嬉しい。
 
 
みんなニコニコしてて、とても楽しそうだ。
久しぶりに会えたからかな?
 
 
うーん・・このマスキッパはなーんか覚えてる。
凄い小さいとき遊んだよなあ。
まさか、あの時のマスキッパなのか・・?
・・しかし、喜んでくれてるのはすごく嬉しいんだけど、噛み付かれてかなり痛いんだが・・・!
前の俺、ちゃんと躾は出来てないみたいだな。
首まで締め付けられて、まじで窒息しそう・・・・。
もごもご苦しんでいると、マネネが助けてくれた。
なんかすごい人懐っこいなこのマネネ・・。
 
デスマスも、モロバレルも、マーイーカーも・・・
みんな俺のこと、すごく好いてくれてるみたいだ。
自分自身も、まだ懐かしい感じが残っていた。
 
「こいつらもおみゃーの仲間だったのニャ。」
 
ニャースが持ってきてくれたのは、いくつかの写真。
 
 
うわ・・こんなに!!
 
 
そこにいたのは、マタドガスにウツボットにサボネア、そしてチリーン。
 
「はぁぁぁーチリーンだ!」
 
昔とっても欲しかったポケモンだった。
俺、ついにゲットできたんだな!
 
しかし、他のやつ等も何か・・愛嬌があって、イケてるじゃないか!
 
 
「なんか俺のポケモンって・・みんな超可愛いなぁあ!!」
 
 
これには本当にテンションがあがる。
こんなにたくさんの可愛いポケモン達と過ごしてたなんて、なんて幸せ者なんだろう。
 
 
キャッキャキャッキャと遊びだすコジロウ。
しまいにはマスキッパに噛まれて喜んでいる。。
 
これにはニャースも苦笑してしまった。
「記憶がなくっても、全然変わんないのニャ・・」
 
 
 
 
お昼の幸せな時間は早くも過ぎ去った。
 
「・・なあ、ニャース」
 
「こいつら・・預かってくんないかな?」
 
「何でニャ?おみゃーが持っとけばいいニャ。」
 
「頼むよ。もしずっと保管庫ってなったらどうすんだよ」
 
「ん・・・でもそいつらはおそらく、コジロウがいいって言うニャ」
 
「・・・・・。」
 
 
だって・・
 
 
 
 
 
 
「・・・・持ち主に忘れられるポケモンなんて、かわいそうじゃん。。」
 
 
 
はぁ・・・
 
こんなこと、本当は言いたくない。
 
でも、俺は次の日には覚えてないかもしれない。
 
自分がこの先どうなるかなんて分かんない。
 
 
「・・・・・・・。」
 
分かったニャ・・と一言。
 
 
ニャースが断れないこと分かって言ってるから、少し申し訳ないけど。
 
「・・ありがとう。」
 
 
 
 
 
 
 
 
「じゃあお前達、・・・元気でな。」
 
ポケモンは本当に純粋無垢な生き物だ。
 
ただ素直に持ち主のために動き、無償で愛してくれる。
 
 
 
本当に最高のパートナー。
 
さよなら・・・・・、俺のポケモン達。
 
 
5つのモンスターボールをニャースに引き渡す。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
さすがに涙が止まらなかった・・・。
 
 
 
 
 
 
 
・・・・
 
 
 
 
 
 
その晩、俺は自分のメモを確認していた。
 
題名は「忘れても、忘れてはいけないこと」
なんか、なかなかのセンスだな・・。
 
・ポケモン達を解放する
 
・サカキ様への責任をとる。
 
 
それから・・
 
 
・ムサシとニャース
 
 
 
まぁ今のところ、ポケモンを開放するは達成したな。
そして、サカキ様には必ず責任を果たさなければ。
俺はこのロケット団にかなりの思い入れを持っているようだ。
まだ自分が理解できるうちに、早くしないと。
 
 
ピピピピピ・・・
 
 
その時、バッグの中で携帯の着信音が鳴り響いた。
あれ、この携帯使うことってあったかな・・。
ていうか、ほとんどニャースやムサシとしか使っていないはず。
 
見ると見たこともない番号だった。
 
なんだ・・・俺また何か忘れたか?
 
 
ピッ
 
「もしもし・・・。」
 
「「・・コジロウさま。」」
 
 
 
「!!!!」
 
電話相手は、なんとあの忌まわしいルミカだった。
 
 
「「お久しぶりですわね。」」
 
「・・・・え」
 
「「ルミカのこと、覚えていらっしゃいます?」」
 
「・・・・・あぁ。なんでこの番号を・・?」
 
「「このルミカにかかれば、番号を知るぐらい、容易いことですわ。」」
 
「・・・・そうか・・。」
 
 
 
 
 
「・・・・・・・・。」
 
「「・・・・・・・・・・・それで、・・」」
 
「「いつ、お戻りになりますの?」」
 
 
 
 
「・・・・・。」
 
 
「「もうそろそろ、戻られるかと思ってましたけど・・。」」
 
 
「・・・パパンに伝えて欲しいことがある。」
 
「「・・何ですの?」」
 
 
「1500万の小切手が欲しい。」
 
「「・・・・・伝えておきますわ。いつ頃のご予定で?」」
 
 
 
 
「・・・・・・・・・・明日の正午だ。」
 
 
 
 
「「分かりましたわ。コジロウさま、この携帯は肌身離さず持っていらして。」」
 
「・・・・・・分かった。」
 
「「それでは・・・・会える時を、楽しみにしておりますわ。」」
 
 
ガチャッ
 
 
ツーツーツー・・・
 
 
 
 
・・・・・・・・。
 
 
 
 
 
 
あいつ、人の心が読めるのか・・。
 
 
 
 
 
 
 
 
本当に恐ろしい女だ。
 
 
ルミカの姿を思い出して身震いしていると、
ふと下の着信履歴が目に入る。
 
"ムサシ"
 
そこには何だか久しぶりの名前。
そういえば、ムサシのことはよく知ってるのに、しばらく会ってないんだよな。
手帳を見ると、別々の仕事で離れてから約1ヶ月。
 
 
 
あいつ・・何してるんだろ。
 
 
 
思わずボタンを押す。
 
プルルルルル・・・
 
「もしもし?」
 
 
・・ムサシ・・!
相変わらず無愛想な声。
でもなんかすごく懐かしい。
 
ふと、この任務でムサシと離れた時の様子が浮かんできた。
 
あ・・そうか!そういえば・・・
 
 
 
 
 
・・!!!??
 
 
 
 
な・・なんだっ・・
 
突然、頭に凄まじい激痛。
一瞬収まったかと思えば、今度は奥底からガンガン脈打つように痛みがつきあがってくる。
まるで頭が割れそうな程ひどい頭痛だった。
 
今まででもここまで激しいのはなかったはず・・
 
 
でも電話をかけたのは自分。
変な心配をかける訳には・・・
 
 
頭を抱えながら、必死にムサシの言葉を聞き取る。
出てきた何個かの言葉は知らなかったが、もはや適当に返答した。
正直、話をするのもキツい・・・
 
 
 
 
だけど・・ムサシには、
 
 
 
もしかしたら、もう・・。
 
 
 
 
 
 
 
しかし、どうやらムサシは急ぎの用らしい。
早くも切りたそうだった。
 
そりゃあ突然の電話だし・・・しょうがないよな。
 
 
「ムサシ・・・仕事、がんばれよ。」
 
「うん、わかったわ。」
 
 
"じゃあな"
 
ピッ...
 
 
 
 
 
ガシャーーン!!!
 
 
 
 
 
 
 
 
開いたまま、壁に激突する携帯電話。
思いっきり投げつけたせいか、接続部分が今にも壊れそうだった。
 
 
ニャ・・?
 
激しい音にふと薄目を開く。
しかし、眠気に誘われニャースは再び目を閉じた。
 
 
 
 
 
 
 
「っ・・・・・・。」
 
 
 
 
 
 
頭痛が・・
 
止まらない・・・。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
・・・・明日なんて、来なければいいのにな。
 
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