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5階へたどり着き、ニャースと供に情報伝達室へ向かう。
今日の任務は外部との通信業務の事務処理と、連絡係であった。
単純な仕事であるが、今回は夜勤の手伝いのためかなりの長時間作業が予想された。
メンバー構成は通信業務役員が1人にその補助役員が1人と、ヘルプの俺達でたった4人だけ。
それで夜通しなわけだから、まあ大変である。
情報連絡室に入ると、いかにもやる気のなさそうな役員がふんぞり返っていた。
「・・あ?今日のヘルプお前ら?」
「・・はい。」
「そうですニャ。」
「あっそう。・・じゃあ、まず飲みもんでも運んできてくれる?」
いきなり雑用・・・。
了解しました!っと笑顔で答えたが、ニャースも俺も思いっきり口角が引きつっていた。
「「なんなのニャ、あの役員は・・・」」
「「なんか・・すげえやる気なさそうだよなあ。」」
コーヒーを入れながら、小声で不満を口にする。
この重要な期間中に、あそこまで適当な役員に出会ったのは初めてだった。
「お待たせしましたニャ!」
とりあえずコーヒーを運び、男に手渡すが・・。
バシャッッッ
「苦すぎだろ!もっと薄めにしろよっ・・・たく。
今日の手伝いは使えなさそうだなあ。
男と奇妙なしゃべる猫だし、つまんねえぜ。」
いきなり入れたコーヒーをぶん投げられ、
ニャースはもろに頭からかぶってしまった。
今にもブチきれそうなニャースと、苦笑いの俺。
「い・・ぃまおもぢしまずに"ゃ・・・」
怒りで震えるものの、ニャースは必死に持ちこたえた。
バターーンッ
ものすごい勢いでドアを閉め、再度コーヒーを入れに向かう。
「おい、そこの下っ端男」
「は・・・・何でしょうか。」
「取り合えず床でも拭いてくれるか?
あとゴミも捨てとけ。」
・・俺もかなりキそうだった。
なんとか怒りを抑え、雑巾を取りに行く。
・・・・・今日は何か一波乱ありそうだ・・。
適度な苦味のコーヒーも準備し、きれいに掃除したところで、ようやく今日の仕事が始まった。
今日は通信機器の設定や操作補助はニャースが、通信記録の事務作業は俺がやることに。
もっとも、今のコジロウにとって通信機器関連となると、また一から操作を覚えなければならなかったため、この配役はニャースの配慮によるものだった。
一方、他の役員2人はというと・・・・一人は横で居眠り、もう一人は何やら携帯で女と話している。
見るからにやる気が感じられない。
なんか気が抜けるぜ・・・。
ともかく、俺は何冊も重ねられた通信記録を取り出し、一つずつ書類に書き写していく作業を始めた。
・・・・
あまりにも地味すぎて、余計眠くなりそうだ・・。
しかし、この仕事ではほとんど作業を覚える必要がなかった。
しかも勤務は夜通し。時間はたっぷりある。
このぐらいあれば変なストレスを感じなくてすむな。
というわけで、もくもくと作業を進めた。
・・「こちら本部。報告ご苦労ですニャ。ひき続き、見張りの方をお願いしますニャ。」
「・・・・こちら本部、現在の新地方C地点の情報を頼むニャ。」
マシーンとくれば何でもこいの理系ポケモン・ニャースは、下っ端補助とは思えない勢いで通信業務をこなしていく。
「猫のくせにやるじゃねえか・・・。
じゃあここは頼んだぜ。」
ガタッ・・
「ニャ・・っ」
ある程度機器を使いこなせると分かると、通信担当役員は席を立った。
ニャースに仕事を丸投げしようとしているらしい。
更に、あろう事か今度はそばにあったビールをがんがん口にし始める。
「ちょっと待つニャ!ニャーは補助ですニャ。もっと本格的な業務は担当役員様の仕事じゃないですかニャ。」
「んだと・・生意気な。俺達は毎晩長時間ここで仕事してるんだぜ。上司の負担を支えるのが部下の仕事だろうが!」
「ニャ・・ニャーは部下じゃないのニャ!」
イライラも限界に足したニャースとこの怠け者役員は、ついに衝突をはじめる。
「・・・。」
その頃、コジロウはもくもくと作業を続けていた。
211・・・212・・、213・・・と。
ん・・・?
どうも数が飛んでいる。
どうやら通信記録が一部足りないみたいだな。
連絡機器の中にまだ取り残されているかもしれない。
席を立つと、機器があるところへ向かった。
「すみませ・・」
話しかけようとすると、何と先ほどの役員とニャースがバチバチの火花を散らして言い合っているではないか。
おい・・ニャース何やってんだよ;;
「この重要な時期に、こんな適当にやってていいんですかニャ!!」
「下っ端には関係ねーだろーがあ!!」
役員はどうやら酔っているらしく、かなり横暴になっている。
「あのーー、そこにある通信記録が欲しいんですが・・」
今度はかなり大きな声で話しかけてみた。
「あ"あ!!?なんだ・・これか?」
うわ・・・キレてんじゃん・・。
「あの・・はい。お願いできますか」
バンッ!!!
次の瞬間、横暴役員は約5センチほど厚みのある記録冊子をコジロウめがけ投げつけた。
冊子はかなりの速度で宙を舞い、勢いよく命中する。
―――よりによって頭に。
――・・・!?
あまりに不意打ちだったため、うまく対処出来なかった。
頭部の強い衝撃。
脳内の全ての機能がバグを起こしたように、狂いだす。
一瞬で目の前が真っ白になった。
なに、いつもピカチュウにぶっとばされて、何十メートルも落下している。打撃には慣れているはずである。
・・が、今回ばかりは違った。
あまりにもコンディションが悪すぎた。
コジロウはあっという間にその場に崩れ落ちる。
「げ・・・」
流石にまずいと思った役員は、もう一人をつれドアを開けた。
「俺達は10分間の小休憩に入る。その間は頼んだぞ、下っ端野郎!」
「コジロウ・・大丈夫かニャ!!?」
すぐにニャースがかけよる。
「いったー・・・」
目を空けると、俺は何やら様々なモニターや機械がある部屋にいた。
・・ここはどこだ・・?
目の前には、光輝く小判を額につけた、猫のような生き物・・。
・・・・・・・
えー・・・と・・・・・あ、ニャースか。
「ニャース・・?」
「よかった・・無事だったニャ。コジロウ、今どこにいるか分かるかニャ?」
「えと・・・・・・」
いや、どう考えても知らない場所だった。おまけに知らない人が叫びながら出ていったり・・。
一体何なんだここは。
「・・悪い。分からん。」
分かるのはニャースだけだった。
そもそも自分の着てる服も、側に落ちている通信記録の冊子も、何がなんだか不明だ。
(まずい・・・衝撃のせいで脳にダメージがあるかもしれないニャ・・・!)
「コジロウ!しばらくそこで待ってるニャ!あまり動いちゃだめニャよ」
そういうと、ニャースは急いで外へ駆け出していった。
「・・?」
状況がイマイチ把握しきれない。
俺は一体どうすれば・・。
ピーピーピー!
その時、通信連絡機に異常を知らせる警報がなった。
「え・・・何だ・・?」
『本部!至急応答願います!!何者かが本部に接近しています!』
『本部!!こちら第二監視室!緊急事態です!!至急応答願います』
本部?
緊急事態・・・?
何なんだ一体・・・
ただ、緊急を要する事があったのは間違いないようだ。
しかも、ここにいるのは俺しかいない。
ここは本能的にスイッチを押すしかなかった。
「はい・・・何か」
『こちら、第二監視室!本部に何者かが迫っているとの情報です!敵は非常に速いスピードで本部へ向かっています。至急門の防衛ロックシステムを作動し、団員を向かわせてください!!!!』
一方的に話した後、すぐさま切られてしまった。
おい、待て・・
俺にどうしろというんだ・・!
頭は混乱するばかりで、どうすればいいか全く検討がつかない。
本部・・・敵・・防衛ロックシステム・・・?
どれも馴染みがない言葉ばかり・・。
なんとか頭を回転させて考えてはみるが、自分ではどうにもならない。
おどおどするしかなかった。
ピッ
再び警報がなる。
『本部!!急いでください!予想以上にものすごいスピードです。このままでは門を突破される可能性があります!!』
ど・・・どうすれば・・・・・
嫌な汗がどんどん流れ出て止まらない。
仕方ない、誰か他の人を呼ぼう。
ドカーーーーーーン!!!!!!!!!
「!!!!?」
その瞬間、すさまじい爆撃音が鳴り響いた。
熱風とともに、本部に激しい振動が走る。
・・・門の方からだ。
これは本当にまずい・・・!!
「どうしたニャ!!」
自体を察したニャースがあわてて駆けつけた。
「ニャース!なんか緊急事態みたいなんだ!
さっきどこからか連絡が入って・・・」
「かすニャ!!!」
ニャースはすごい勢いで通信機器を操作し始め、先ほどの信号を再生した。
「これはまずいニャ・・!」
すぐさま緊急ロックシステムを作動させた。
門の辺りに巨大な格子が出現し、レーザーのシールドがあちこちから飛び出した。
「・・・・なんだこれ・・。」
「コジロウ、お前は下がってるニャ!」
「何だ!何があった!!」
あわてて情報伝達役員が駆け込んできた。
「緊急事態なのニャ。何者かに奇襲を受けたようだニャ。」
「何だと・・・!モニターを写せ!」
とたんに目の色が変わった役員らは、手馴れた手つきで次々と防衛システムを作動していく。
あっという間に本部内部に緊急事態を知らせる警報が鳴り響いたかと思うと、迅速に兵器と部隊が用意され、完璧な防衛体制が整った。
「よし、相手は門の防衛ロックシステムに手間取っている。今のうちに内部から攻撃を開始するよう通達しろ。」
「了解ニャ」
「こちら本部通信連絡室。只今より砲撃を開始する。」
一斉に門の手前から砲撃が開始された。
奇襲をかけた敵は驚き、体制を崩す。
その隙をぬって団員達は包囲網を作り、敵を取り押さえることに成功した。
「はぁ・・・・やったか。」
「一瞬冷やっとしたぜ・・・。」
どうにか事態が悪化せずにすんだ。
幸い、敵は俊足だが少数だったため、簡単に取り押さえることが出来たようだ。
「ふぅ・・・。」
・・・・
「・・・・。」
今、目の前ですごいことが起きている。
俺は映画の中にでも入ったのか・・・?
激しい攻撃が行われる中、一人呆然とする。
先ほどから頭はガンガンするし、いきなりの信号を受けたことでかなり動揺していた。
ピッ ピッ
・・・落ち着け・・!
目の前のニャース達の必死な姿を眺めながら、何とか自分のおかれている状況を分析し始める。
俺は・・今まで何をしていたんだ?
確か、家を飛び出してからどっかへ行ったんだよな。
この服・・・・どっかの作業員のものだろう。
今目の前にいるやつらのと似てる・・。
・・・そうだ、ロケット団だ!思い出した・・!
となると、俺はロケット団の本部にいるのか。
ここはおそらく司令室か何かで、緊急信号を受信したんだ。そして今防衛体制を作っているところ・・・・。
もともと状況判断力は良かった。
かすかに覚えている記憶と、今の状態を必死につなぎあわせる。
点と点をつなぐように、次第に今の状況が把握できてきた。
――・・・。
翌日。
「コジロウ、体調は大丈夫ニャ?」
「・・ニャース。」
「昨日はタイミングが悪かっただけニャ。
今の気分はどうニャか・・?」
「あぁ・・特に問題ない。」
「よかったニャ。でも衝撃の影響がまだあるはずニャ。
無理しない方がいいニャよ」
「昨晩のことは・・・・もう思い出したよ。」
「ニャ・・本当かニャ!?よかったニャー!!」
でもコジロウの表情は暗いままだった。
「・・・・・悪かったな。
昨日は・・何も出来なくて。」
「気にすることないニャ!
記憶もかなり飛んでたし、すぐに対応するなんて無理ニャ。」
最悪のタイミングだったとはいえ、昨日の防衛装置作動が遅れたのは他ならぬコジロウの責任。
本部の内部へのダメージはなかったものの、最初の奇襲による前門の崩壊と、そこを警備していた団員が負傷するという損害がでた。
おそらく、今日のうちに発表があるだろう・・。
「コジロウ、ニャース、サカキ様がお呼びだぞ。」
・・・やっぱり来たか。
ついにボスのサカキによる、直接のお呼び出しがかかった。
「失礼致します。」
社長室に入ると、昨日の通信連絡室にいた二人の役員はすでに到着していた。
ボスの顔は厳しいまま。
ニャースとコジロウにも緊張が走る。
「ですからサカキ様、あのような事態を招いたのは、初期の段階で対処をしたあの二人の責任でございます!」
「「人任せにしといて、何て都合の良いやつ等なのニャ・・!!」」
あれだけ適当にやっておきながら、役員達が語るのはニャース達の失態ばかりだった。
「それで・・・お前達は役員のくせになぜ緊急信号が受信された時点でその場にいなかったのだ・・?」
「(ギクッ・・・)それは・・・その・・交代制で行っていたためです・・!」
「・・・そんな制度はロケット団にはない・・。
勝手なことをぬかすな。
・・・役員の座は降格だ・・・。」
「そ・・そんなあ」
さすがサカキ様。
そんな言い訳は通用しないのニャ・・!w
ニャースは心の中で「ざまぁみろ」とあざ笑った。
しかしサカキの鋭い眼光は次にこちらに向けられることに。
「で・・・・・。貴様らはなぜあの場で対処が遅れたのだ?」
(うっ・・・それは・・・)
「それはその・・複雑な事情が・・というかニャ「あの時に信号を受信したのはこの私です。」
(・・・コジロウ・・!)
あわてるニャースを制止し、コジロウは一歩前に出る。
「・・・確かに、室内カメラによると対処していたのはお前だったな。」
「・・はい。私は操作の補助を担当していて、あの時確かに信号を受信しました。しかし、前門のカメラでは敵が来る様子は確認できなかったので、私はすぐさま防衛ロックシステムを発動する必要はない、という結論を出したんです。」
「・・・・・つまり、状況判断を誤ったという訳か。
監視室では発動するようにと指示を受けたようだが、なぜそう判断したのだ?」
「・・・以前似たような信号があった際は敵の奇襲はありませんでした。もっとしっかりと状況を見極めてから段階を踏むべきだと考えた故です。」
「・・・・・・・・・。」
(そ・・そんなの嘘だニャ・・・)
しかし、とても言い出せる雰囲気ではない。
張り詰めた空気が辺りをつつむ。
今すぐにでも逃げ出したかった。
「・・・それで、お前はこの結果をどうするつもりだ・・?」
「・・・・・・・ゴクッ」
「前門の修復費用に団員補給の手配・・・・。
実に一千万単位での損害が出ているが・・・貴様の責任としてもいいのだな?」
「・・・・・・・。」
万事休すだニャ・・・
「・・・・・・私が、責任を取ります。」
まさかの一言。
「コジロウ!!そんなの無理ニャ・・!正直にことをは・・「ご安心ください。必ずこの私が何とかします。」」
コジロウ・・・・
「・・・・・わかった。約束は守れ。」
サカキはそのまま背を向け、それ以上の言葉はなかった。
・・・・
「おミャーはバカだニャ!!!!!
なんであんな事いったのニャ!!!!!」
「・・どっちにしろ俺のせいだろ。
言い訳なんてサカキ様には通用しないだろうし。」
「だからって・・・・しっかり役員達の失態も報告するべきだったのニャ!!
全責任おうって・・どう考えても無理だニャ・・。」
「・・・・。」
「・・・・まあ、俺が何とかするって。」
ただでさえドジで泣き虫でヘタレで、成果の一つも出してないっていうのに・・。
どうやって責任取ることが出来るっていうニャ・・。
そう訴えるニャースの目は涙でいっぱいだった。