memory...

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「「なんで・・・・なんであいつがここに・・・!」」
 
 
 
 
 
 
そろそろ夏も終わり。
かすかに秋の気配がしてきた。
そんなある日のこと。。。
世にもおぞましい、最悪な出来事が起こった。
 
 
「あいつら一体どこ行ったんだ・・」
 
 
今日も毎度のごとく、ムサシ、ニャースとともにジャリボーイ御一行を探し求め、とある町をさまよっていた。
あいつらと来たら、、、町中こんなに必死に探してるのいうのに、まったく姿を見せない。
ショッピング街、公園、小さな細道にいたるまで、今日はひたすら歩きまわっている。
 
 
「確かにこっちの方向に行ったと思ったんだけどニャー・・・」
 
「全然いないじゃなーい!!なんとかしなさいよー!」
 
 
双眼鏡片手にあせあせするニャースと、ただただ愚痴をたれるムサシ。
まあいつもの日常的風景である。
持ち前のポジティブさと行動力で今日もここまでやっては来たが、流石にあまりにも歩き続けたため、そろそろ足は限界に近かった。
それに、今日は朝から何も口にしていない・・。
空腹と疲れもピークを迎えていた。
 
 
「ひとまず、近くの森にいって木の実でも調達しようぜ。」
 
 
なにせ、一文無し。
最も現実的な選択肢は木の実を探すことである。
森はすぐ近くだし、木の実の一個や二個くらいはあるだろう。
 
「そうね。」
 
「ジャリボーイ達も今日は見つかりそうにないしニャ・・。」
 
とりあえず森に向かうことにした。
 
 
 
夕暮れにさしかかるころ。
森は静かで、オレンジ色に染まっていく空がなんだか幻想的である。
この森には美しい泉もあり、たくさんの野生ポケモンが生息しているようだ。
まさに癒しの森、といった感じ。
 
とにかく、夜ご飯の木の実だな!
できれば大量にゲットして保存しておきたいものだ。
頼むからスピアーの群れとかだけは勘弁してくれ・・。
 
考え事はその辺でさておき、3人は早速木の実探索を始めた。
 
「木の実・・どこだ・・・・・・・あ!あれ!」
 
ムサシが叫んだ先には、青い果実。
オレンの実かもしれない。
 
「よし、あれを取ろう!」
 
思いたった、その瞬間。
 
 
 
俺の背中を、ものすごい悪寒が走った。
 
 
 
 
 
 
何だ・・・・・?
 
 
 
 
 
何なのかは分からない。
ただ、すごい、なんというか・・良くはないことが起ころうとしているのは間違いない。
体の底から、シックスセンス的なものがそう感じ取っている。
 
そして、まさにその10秒後。
 
 
 
 
 
「あら・・・もしかして、コジロウさま!!!!!」
 
 
 
 
 
見事に先ほどの感は的中することとなった。
世界で最も恐れている人物が、なんとこちらに向かって走ってくるではないか。
 
なんで・・・・どうしてこんなところで・・・・・・・!!
 
 
 
 
 
 
 
 
「ル・・・ルミカ・・!!?」
 
 
 
 
 
 
 
「コジロウさまー!あなたの親愛なる許婚、ルミカですのよー!」
 
 
「誰が親愛だーーーー!顔も見たくないわ!!」
 
「ちょっと!何すんのよ!!!」
 
「やめるニャー!!・・・・って、あれはコジロウの・・?」
 
気付いたら、俺はニャースとムサシを引っ張って一目散に走り去っていた。
先ほどまでの足の疲れが嘘のよう。
自分でも、どこにこんな力が隠されていたのか分からなかった。
 
「お待ちになってーーーー!どうしてお逃げになるのですか、コジロウさまーーーーー!」
 
中世ヨーロッパを思わせる分厚いドレスを引きずって来る割に、予想以上に手ごわい許婚・ルミカ。
とにかく無我夢中で走る。
息をつく暇などなかった。
 
悪夢だ。よりによってこんな不意打ちで・・・。。
 
 
 
「コジロウさま・・・・」
あまりに必死で逃走するコジロウの気迫に負け、どんどんその姿は小さくなっていく。
 
「ここで会えたのはまさに運命。絶対逃がしませんわよ・・・・!」
 
 
 
 
 
 
 
ハア・・ハア・・
 
 
走りに走って、ようやく先ほどの町の中心街付近までたどり着いた。
どうやら、うまく撒いたようである。
 
フゥ・・・・助かったぜ。
 
「ハァ・・ハァ・・・ったく何なのよもう。・・てか、何であんな所にあの女がいるわけ?」
 
「知るかよ!俺だって・・・心臓止まるかと思った・・・。」
 
「ひょっとして・・・あれ・・」
 
 
ニャースが指さした方向を見ると、先ほどの森の半ば辺りに、洋館のような大きなお屋敷が見えた。
おそらくルミカの別荘だろう。
 
なるほど・・・夏休暇かなんかで遊びに来ていたのか。。
 
確かに景観の良い、美しい森であった。
近くに大きな町もあることから、ここに別荘を建てるのも分からなくはない。
それはともかく、本当に、身の毛もよだつ恐ろしい瞬間だった。
 
 
はぁ・・・・・。
 
 
力を限界まで使い果たし、その場で地面にへたりこんでしまった。
 
・・・もう食料を取りに行く気力も残されていない。
 
 
 
 
 
 
気がつけば、周りはすっかり暗くなっていた。
 
仕方なく、今日は町の外れにある小さな公園に寝泊りすることにした。
幸い、トイレ・水道・屋根付きベンチが備わっており、人気もないようだ。
ふーっと一息、ベンチに座り込む。
 
 
 
・・・・・・・・。
 
 
 
 
ぐぅー。
 
 
 
誰かのお腹がなれば、次から次へと空腹のお知らせが鳴り響く。
 
それにしても何とも空しい1日だったんだろう。
朝から何も食べずにジャリボーイを追っかけ、町中を駆け巡り、森へ行っては食料一つゲットできず、更には恐怖の許婚にまさかの遭遇、逃走で全体力を使い切り、公園で野宿とは・・・。
思い返せば返すほどため息がでる。
 
俺たちの人生っていったい・・・・・。
 
 
 
 
 
 
 
「あのー・・失礼ですが、こちらに泊まられるご予定で?」
 
もの思いにふけるもつかの間、いきなり声をかけられ思わずベンチから落ちそうになる。
見上げると、一人の女性がにっこり微笑んでたっていた。めがねに紺色の被り物、足まで伸びる長いスカートを着ており、まるで修道女のような格好だ。
 
 
「そうよ。何か文句でもあるっての?」
 
空腹で機嫌最悪のムサシは無愛想に答える。
 
「いえ、とんでもない。この辺りの公園は家出した若者や、ホームレスの方がよくお泊りになるのです。私どもはそのような方々に対しボランティア活動を行っているのです。」
 
「誰が家出のホームレスよ!!!」
 
「ボランティア活動ニャと・・?」
 
「はい。この辺りは大変治安がよく、整備された公園がたくさんあるので、あなた方のように多くの方がここらで野宿をされるのです。」
 
「その割には誰も見当たらないけど・・・。」
 
「はい。この公園にしては珍しいことです。野宿をされる方々はそれぞれが本当に様々なバックグラウンドをお持ちでして・・・。私どもはそんな方々に僅かながらの支援を行っているのです。」
 
「・・だから、何がしたいのよ!」
 
ムサシはそろそろ限界が近いらしい。
 
「ご指摘ありがとうございます。本日は、ボランティア支援の一環として、これらの品をお配りしているところでございます。」
 
シスター風の女性がそう答えると、入り口付近に泊めてあった車の中からもう一人女性が現れ、何やらダンボール箱を抱えてやってきた。
 
箱を開けてみると、そこにはブランケットとコッペパンが3つ。
 
「え!!!何これくれるの?詐欺じゃないでしょうね!?」
 
ボランティアという概念が信じられないムサシ。
でもその顔は溢れんばかりの喜びでいっぱいだ。
 
「もちろん、無料でございます。更に、暖かいスープもサービスしておりますよ。」
 
車の中で何やら女性が作業をしており、しばらくすると今度は暖かいスープがやってきた。
 
「どうぞ。」
 
「ありがとニャー!!これでお腹が満たされるニャ」
 
「こんな優しい人も世の中にはいるのね・・・!」
 
パク・パク、ムシャムシャ、、
ニャースとムサシは涙を流しながら夢中で食べ続けた。
 
 
 
まさか、最後の最後にこんな幸せがあるなんて。
 
 
人生捨てたもんじゃないな!
 
 
今日の散々な出来事を思い出しながら、コジロウはしばらく二人を見つめていた。
 
「食欲がないのですか?」
 
女は心配そうに覗き込む。
そんなわけないじゃないか、むしろ勿体無くて食べにくいくらいだ。
 
「いや、なんか嬉しくて・・・こんなことあるんだなあーって!」
 
えへへーなんて笑っていると、助手らしき女性が何やら飲み物を持ってきてくれた。
 
「これは様々な木の実を配合して作った、いわば医療栄養ドリンクのようなものです。飲むと力が出ますよ。お疲れのようなので、どうぞ・・」
 
お言葉に甘えて、そのドリンクを一口飲んでみる。見た目はトマトジュースのような感じだが、飲んでみると深みのあるというか、甘いとも酸っぱいともいえない、随分と不思議な味がした。確かに、なんだか力が湧きそうな感じがして、全部飲み干してしまった。
 
「これ美味しいですね!何から何まで、ありがとうございます。」
 
「ありがとうございまーす!!!」
 
「いえ、皆さんの笑顔が何よりの幸せです。このブランケットは差し上げますので、今夜はどうかお気をつけて、ごゆっくりお休み下さい。」
 
ホクホク顔の3人にブランケットを渡すと、女性二人はお辞儀をして車で去っていった。
 
「食べ物貰えて幸せニャぁ〜。」
 
「本当よね。悪い人間もいれば、良い人間もいるのね!」
 
「悪い人間て俺らなんじゃ・・ww」
 
「うっさいわよ!・・ってこれ、ブランケット2枚しかないわ。」
 
「あらら。」
 
「今日は気分がいいし、3人で使うニャ!」
 
持参していたシートを広げ、3人で2枚のブランケットにくるまる。
少しだけひやっとした初秋の夜にはとても快適だった。
今夜は満月で、空はぼんやりとしたグラデーションになっている。
風がさらさら、気持ちがいい。
 
「月が丸いニャぁ」
 
「また一人で哲学かよ。」
 
「じゃあおみゃーらも哲学するニャ。」
 
「やーよ。明日のために早く寝なきゃ。明日こそピカチューゲットなんだから。」
 
「そうだな。」
 
 
 
 
 
 
動き回った疲れもあってか、5分後には3人ともぐっすり夢の中へ―――。
 
 
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